日本狼(ニホンオオカミ)が神格化されたもので、古来から聖獣として崇拝されてきました。猪や鹿から畑の作物を守護し、人間の善悪を見分ける力を有し、善人を守り悪人を罰するものとして信仰されます。厄除け、特に盗難や火難、害獣除けの神として祀られています。
犬神様・御犬様と同じ信仰とされ、「おおくちの」は狼の別名である真神にかかる枕詞とされます。
『大和風土記』の逸文のなかに「昔、明日香(奈良県柏原市飛鳥)の地に老狼在りて多く人を食う。土民恐れて大口の神という。その住める所を名づけて大口真神原という」と記されている。
『万葉集』にも「大口の真神の原に降る雪は、いたくな振りそ家もあらなくに」、「三諸の神南備山ゆ棚雲、雨は振り来ぬ雨霧ひ、風さへ吹ぬ、大口の真神の原ゆ思びつつ、還りにし人、家に到りきや」などが読まれています。
出典:大口真神の神札(武蔵御嶽神社)
狼は大神であり、神聖な動物として崇敬されていたもので、今でも御犬様と呼ぶ地方もあります。
埼玉県秩父の三峰山の山頂の山住神社、京都府舞鶴市の大川大明神などは、狼を神使として祀る神社として有名。
大川大明神のある徹光山は「おおなる」という俗称があり、昔から狼の鳴動が聞こえ、巨木が茂っていて、大川五社大明神ともいわれる(現在は大川神社と呼ばれている)
いずれの神社でも大口真神と書かれ、狼の絵がのった神札が出され、この御札は盗難除として信仰されています。また、田畑の作物を荒らす害獣による災害除けとしても信仰されています。
関東地方では、三峰山のほかに東京都青梅市にある御嶽山の御嶽神社でも大口真神の神札を扱っています。
三峰山と御嶽山は雲取山系を挟んで、峰伝いに近くに位置しており、山深い両山とも山伏の修験道場であったことにより交流があり、御犬信仰もそれなりの由来があったとされます。
三峰山の御犬の神札の起源は、社の記録に亨保十二年(1727年)からあるところをから、大昔からあった御犬信仰は衰微していたましたが、近代になって再び流行し出し、全国に広がっていったものと考えられます。
猪や鹿による田畑の被害をさけるためにこの神札を竹に挟んで畑に立て災害除けとし、また、盗難、火難よけのために戸口に貼られていました。
大口真神と大和武尊
武蔵御岳山上の武蔵御嶽神社には『日本書紀』の記述に基づく「おいぬ様」の伝説があります。
それによると、日本武尊の東征の折、御岳山を登っていると大きな鹿の姿をした邪神に道を塞がれます。尊は野蒜を鹿に投げつけて退治しますが、山谷鳴動し雲霧が生じ、道に迷ってしまいます。
困り果てた一行の前に忽然と白狼が現れ、道を失った大和武尊の軍を導きます。尊はその白狼に「全ての魔物を退治し、大口真神としてこの御岳山に留まるように」と伝えたとされます。
出典:犬神(wikipedia)
犬神とは人に取り憑いて害をなすという、目に見えない小動物のことで、中国・四国・九州地方に多く伝わる俗信としての犬神信仰があります。
犬神が憑いている家や人を、「犬神持」「犬神筋」「犬神憑」などと呼び、その家との縁組を避けられていたとされます。
この犬神はネズミぐらいの小動物で、多くは女性に取り憑き、代々女性を通して伝わると信じられ、家人には見えるが他人には見えないとされていました。
全国では狐憑きにまつわる言い伝えが圧倒的に多いなか、犬神は徳島、高知を中心に、中国、九州などで強く信じられていました。
憑き物は今でいう精神疾患や難病の原因と見なされ、犬神は怪しい存在として忌み嫌われたため、表立って伝わることはありませんでした。
出典:オオカミの頭骨(徳島新聞)
犬神に関する最古の記録として『飯尾常連奉書(徳島県立博物館)』があります。
美馬市の民家に伝わる室町時代の古文書で、これによると阿波の奉行人が「国中に犬神を操る者がいると聞くので、早く探し出して処罰するように」と命じた内容で、犬神が治安上の問題になった様子がうかがえます。
この民家からは、日本狼とされる頭骨が見つかっており、狼の霊力が犬神に打ち勝つとして魔よけに使ったと考えられています。
烽火は狼煙とも書きます。昼は煙を高く立たせ、夜は火を放って所在を明らかにするなど信号の役割がありました。
『築上記』に「のろしはかがりを焼く如く木を積みておくなり、用のとき火を付ける。狼の糞をくぶるなり」とある。また、狼の糞をくべると、その煙は春の霞のようであったと記す古文書もあります。
狼は肉食獣で、その糞には多量の酸化窒素が含まれていたので烽火に用いられていたそうです。
この酸化窒素は日本には少ないものですが、集団で行動していた狼の糞からは多量に採集しやすく、それを取り烽火に用いられたことから狼煙という字を使ったとされます。
現代では、親切を装って女性を送り、隙があれば乱暴を働こうとする危険な男性という意味で使われます。また堕落した僧のことも狼と呼ぶそうです。
本来はの意味は、山中などで人の後をつけてきて、隙をみて害を加える狼のこと。
転んだら食い殺されるため、狼に後ろをつけられたら転ぶなといわれていたそうです。
本州・九州には、南方系の小型のホンドオオカミ(ニホンオオカミ・ヤマイヌとも呼ばれる)がおり、北海道には大型のエゾオオカミがいましたが、明治37年頃に絶滅したとされます。
人に恐れられ、人まで襲う強い狼がなぜ絶滅したのでしょう。
これには狼は集団で生活していたことが挙げられます。狼は人畜を襲うことも在りましたが主食は鹿でした。集団のため力も強かったが、人による集団毒殺もしやすくこれが絶滅を早めたといわれます。
古来から日本では、偉人は死後に神格化され神として祀られます。狼は田畑を害獣から守る神獣として神格化され、祀られるようになったのでしょう。
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