天津麻羅(Art Mochida Daisuke)
日本神話に登場する神さま。「目が一つ」というユニークな名前を持つアメノマヒトツ神は、アマテラス大神の孫であたり製鉄・鍛冶の神さまとされます。一目連社では台風除けの神さまとしても信仰されています。
日本書紀・古語拾遺・播磨国風土記 |
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天目一箇神(あめのまひとつのかみ) |
別称 |
鍛冶神(かじのかみ) |
金工の神 | 鍛冶の神 | 山の神 |
火の神 | 台風の神 | 製鉄の神 |
金属工業 | 農業 | 漁業 |
眼病守護 |
父神 | 天津彦根命(あまつひこねのかみ) |
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母神 | 下照比売命 |
兄弟姉妹神 | 比売許曽命 |
妻神 | 針間荒田道主日女命 |
子神 | 意富伊我都命 |
出典:鍛冶神「日本の神々辞典」
『古事記』の天の岩戸神話では、隠れたアマテラス大神を誘い出すための祭りに使う刀剣類や斧、および「鉄鐸(さなぎ)」という鉄生の大きな鈴を作ります。
「作金者(かなだくみ)」とよばれる金属の細工をする職人として、この神は鍛人天津麻羅(かぬちあまつまら)と呼ばれています。
その後の天孫降臨神話では、ニニギ尊に同行して地上に降り、鍛冶の祖神になりました。地上に鍛冶の技術をもたらしたアメノマヒトツ神は、日本の金属文化の源流に関わる神さまです。
鍛冶の神の発生は、人間が金属を精錬し、それを道具として生活に利用するようになった金属文化の発展にともないます。
鉄が作られるようになると、原料の砂鉄を溶かす灼熱の火に対する独自の信仰が生まれ、製鉄の炉や鍛冶の技術をつかさどる神霊を職能神として祀られるようになります。
古来から製鉄・鍛冶業にたずさわる人々は、その作業場に鍛冶の祖神を祀り、朝夕の出入りのたびに身の安全と稼業の繁栄を祈願する習わしがありました。その神がアメノマヒトツ命であり、今日では金属工業の守護神として広く信仰されています。
出典:一本だたら「都道府県らくがき」
日本の神々のなかでもアメノマヒトツ神は非常に個性的です。「目が一つ」という特異なイメージは、容易に一つ目の妖怪を連想させます。
民間伝承には、一眼一足の怪異な姿をした山の神の話が多く伝わっています。それについては民族学者・柳田国男の『一目小僧その他』が詳しいですが、その一つに紀伊国(和歌山県)熊野の山中に住む片目片足の「一本ダタラ」という妖怪がいます。
その呼び名から山の神とアメノマヒトツ神が結びつけられています。タタラは踏鞴と書き、古代の製鉄所のことです。そこからこの片目片足の妖怪は、かつて山中のタタラで働いていた鍛冶集団が祀った山の神と深い関係があると考えられています。
一つ目の鍛冶の神の神話伝承は、日本に限らず世界的に広く存在します。たとえば、ギリシア神話に登場するゼウスの雷電を鍛造(たんぞう)したキュクロプス、アイルランドの伝承に登場するバロールなどはいずれも一眼の巨人で、やはり鍛冶に関係しています。
それにしてもなぜ一つ目なのでしょうか。
これといった定説はありませんが、有力なものとして、鍛冶職人が鉄を鍛えるときに片目を閉じて作業をするからだという説。あるいはまた、昔のタタラ師は炉の火色を片目で見て温度を判断して精錬を行なったことと関係があるという説があります。
タタラ師が片目で見るのは、そのほうが色を正確に識別できるからだそうです。
三重県桑名市の多度大社の別宮として一目連社(いちもくれんしゃ)があります。名前からも分かるように祭神はアメノマヒトツ命ですが、本来は片目が潰れた龍神でしたが、習合により同一視されるようになります。
中部地方では「つむじ風」のことを一目連(一目龍からの転訛てんかといわれる)と呼び、突然やって来て暴れることから神風と恐れられました。
一つ目の暴風といえば台風がイメージされますね。
昔からこの地方では洪水・暴風のときに一目連神が危難を防いでくれると信じられ、台風の神として祀られてきました。
多度大社は、金属工業の守護神としても篤い信仰を受けていますが、同時に古くから風・水・火難除けの信仰があり、農漁業守護に霊験ありとされています。
なお、アメノマヒトツ命は、一つ目の特徴にちなんで眼病の守護神とされたり、民間信仰のヒョット(火男)や、各地に残る鎌倉権五郎影政(かまくらごんごろうかげまさ)の片目伝説との結びつきが考えられています。
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