豊雲野神(Art Mochida Daisuke)
『古事記では』神世七代の第2代、『日本書紀』では第3代として記される神さま。神世七代の最後の独神。神名は「豊かな(トヨ)雲(クモ)」の意であり、雲を神格化した存在とされます。縄文時代から祀られていた歴史があり、古き神とされます。
古事記 | 豊雲野神(トヨクモノノカミ) |
---|---|
日本書紀 |
豊斟渟尊(トヨクムヌノミコト) |
豊穣神 | 大地の神 | 雲の神 |
五穀豊穣 | 無病息災 | 家内安全 |
第1代 | 国之常立神(クニノトコタチノカミ) |
---|---|
第2代 | 豊雲野神(トヨクモノノカミ) |
第3代 |
宇比地邇神(ウヒヂニ) |
第4代 |
角杙神(ツノグヒ) |
第5代 |
意富斗能地神(オホトノヂ) |
第6代 |
於母陀流神(オモダル) |
第7代 |
伊邪那岐神(イザナキ) |
出典:豊雲野神「日本の神々辞典」
『古事記』では国之常立神からイザナギ、イザナミまでの神世七代の中で第2代にあたる神さま。配偶神のいない独神で、別天神と同様に身を隠したとされます。
天地開闢後も流動浮遊していた天地が、安定した状態に至ったことを神格化されたのがアメノトコタチ神、クニノトコタチ神。
トヨクモノ神はその国の礎であるクニノトコタチ神の出現を受けて登場する神であり、そのような国(大地)の生命に満ちた豊穣な状態を神格化した神とされています。
ウマシアシカビヒコジ神とアメノトコタチ神が、大地に由来する豊かな力(生成力・生命力)とそれによる「天の礎」の成立とするならば、クニノトコタチ神とトヨクモノ神は「国の礎」と豊かな大地の状態にあたります。
神名の「豊」は豊かを表しますが、それを「雲野」の雲と野のどちらにかかるかについては2つの説があります。「豊かな雲に覆われた野」か「雲に覆われた豊かな野」のいずれかですが、トヨクモノ神が国(大地)の展開の中で登場する観点から基本的には「雲に覆われた豊かな野」だと考えられます。
日本書紀では神世七代の第3代豊斟渟尊として登場します。天と地が分かれた後、葦牙(あしかび)のようなものから国之常立尊、国狭槌尊に続いて出現した男神とされます。
いずれにしても水が豊かの葦原の原型を連想させつつ、豊富な水による植物の生長や未来の生産の豊穣を想像させる点で共通しています。
トヨクモノを祭る神奈川県伊勢原市の比々多神社では、1万年以上前から信仰の場所として存在していたそうです。神武天皇の時代にはトヨクモノを祀る歴史があり、トヨクモノは縄文の頃からの神と推測されます。
トヨクモノを信仰していた相模三浦氏は北条早雲に滅ぼされ戦国時代にはほぼ消滅します。三浦氏の子孫は守護大名から百姓に転落しますが、江で浪人を続けて徳川家の旗本と交友関係を広げていき、結果、旗本に取り入れられ従五位下相模守となります。
かつて2つの神社が相模国一宮を争ったそうです。これをトヨクモノが「決着は翌年に」の一言で仲裁したとあります。このことからトヨクモノは争いの収める神としての側面もあるようです。
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