山幸彦(Art Mochida Daisuke)
美人で名高いコノハナサクヤヒメ命と天孫ニニギ尊との間に生まれた三人兄弟の末弟。神話「海幸山幸」の山幸彦です。神武天皇の祖父であり、皇室の祖先神として名を連ねます。縁結び、商売繁盛などのご利益があり、虫よけの神ともされます。
古事記 |
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火遠理命(ほおりのみこと) |
日本書紀 |
彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと) |
別称 |
天津日高彦火火出見尊(あまつひだかひこほほでみのみこと) |
穀霊神 | 稲穂の神 | 虫よけの神 |
農業・漁業 | 畜産守護 | 商売繁昌 |
航海安全 | 心願成就 | 開運厄除 |
縁結び | 子宝・安産 |
出典:彦火火出見命「音川安親」
『古事記』では、長男が火照命(ホデリ:海幸彦)、次男が火須勢理命(ホスセリ)、そして末っ子が火遠理命(ホオリ命:山幸彦)。
『日本書紀』では、長男が火闌降命(ホスソリ:海幸彦)、次男が彦火火出見尊(ヒコホホデミ:山幸彦)、末っ子が火明命(ホアカリ)となっています。
兄弟の名前には、いずれも火(穂に通じる)の字が使われていることで、その基本的な性格が示されています。つまり、炎の様子を稲穂の成長過程と結びつけたもので、兄二人はそれぞれ火が明るく燃える、火が激しく燃え盛るという意味です。
そして、この神さまの幼名のホオリというのは炎が衰える様子を意味し、稲穂が実って頭を垂れる姿を象徴しています。
兄のホスソリは釣り針、弟のヒコホホデミは弓矢と生まれながらに「幸」を持っていたとされます。そこからホスソリは海幸彦、ヒコホホデミは山幸彦と呼ばれます。
「幸」というのは、狩猟採集時代に海や山の獲物を捕るための道具だった弓と矢、釣り針を意味しています。道具は、狩猟民や漁民にとって獲物を保証する霊力の象徴でした。
この名前から神話「海幸・山幸」を思い浮かべる人は多いと思います。
兄の海幸彦は海で魚を捕ること、弟の山幸彦は山で獣を狩ることが得意です。あるとき、弟が兄を強引に説き伏せてお互いの道具(幸)を交換して獲物を捕ることにしました。
ところがどちらもうまくいかず、お互い道具を返すことになりますが、山幸彦は兄の大事な釣り針を失くしてしまいます。それに激怒した兄は弟がいくら代わりの釣針を作っても許してくれません。
困り果てた山幸彦が海辺で泣いていると、シオツチノオジ神が現れます。事情を話すとシオツチノオジは小船を作って山幸彦を乗せ、海神の宮殿へ行くように指示します。
山幸彦とシオツチノオジ
宮殿はとても立派なものでした。門の前の井戸のそばにあった樹の下でさまよっていると、一人の女性が扉を開けて出て来ました。海神の娘の豊玉姫(トヨタマヒメ)です。
トヨタマヒメはすぐに父に相談し、山幸彦は招き入れられ海に来た理由を伝えます。
事情を聞いた海神は魚たちに調べさせ、鯛が飲み込んでいた釣り針を取り戻しますが、釣針をすぐには山幸彦に渡さず、トヨタマヒメと結婚させて海に留めます。
三年間幸せに暮らしますが、故郷を懐かしく思い、ため息をつくことが多くなった山幸彦。トヨタマヒメはそれを聞き父に「もう地上へ返してあげましょう」と言います。
海神は「この釣り針を兄に返す時『この釣り針は、おぼ針、すす針、貧針、うる針』と唱えながら後ろ手に渡しなさい。そしてもし、兄が高いところに田を作ったら、あなたは低いところに。兄が低いところに作ったなら、あなたは高いところに田を作りなさい。これで兄は貧しくなるだろう」と告げます。
さらに、身を守るための塩満玉(しおみつたま)、塩乾玉(しおひるたま)という二つの玉も渡し、「兄は次第に貧乏になり、心が乱れるだろう。すると恐らく兄は君を攻めてくるだろうから、そのときはこの潮満珠を使って溺れさせなさい。苦しんで許しを請うてきたら塩乾珠を使って助けなさい」と告げ、山幸彦を鮫に乗せて地上へと帰します。
地上に帰り、海神の言うとおりに釣り針を渡して、田んぼを作ると、兄は次第に貧乏になっていきます。それを恨んで海幸彦は人数を集めて襲ってきますが、山幸彦は2つの玉で兄を返り討ちにします。
降参した兄は山幸彦に謝り、「これから先はあなたの警護の役を勤めましょう。」と誓わせます。
若者が海底の竜宮へ行って美しい姫に出会い、神秘的な呪力を得て弱者から強者に変身し、地上に戻って敵対者に打ち勝って支配者となる。
同様のモチーフは、海洋民族系統の神話伝承として世界的な広がりをもちます。一般的になじみのある山幸彦というのは、あくまでもこうした冒険とロマンの英雄像ですが、ヒコホホデミ尊の一面といっていいでしょう。
海幸・山幸神話は、古代の海人族の伝承がベースになっているといわれています。そこから、古くからあった漁民集団の海神信仰と、海の彼方からやって来る穀霊(来訪神)の信仰が結びついたものが、この神さまの原像だと考えられます。
つまり、ヒコホホデミ尊は農業の守護神であるのと同時に漁業の守護神でもあるという二つの性格を兼ね備えているということになります。
なお、農業の守護神としてのこの神さまは、稲を食い荒らすイナゴ・ウンカなど、害虫を退治する虫除けの神として崇められています。
福井県武生市の大虫神社の祭文には、昔、国中に害虫が大発生して人畜・作物に被害が出たとき、ヒコホホデミ尊の神威によってこれを駆除したと伝わっています。
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